「今年も求人広告に数百万円かけた。でも、思うように採用できなかった」
そう話す経営者や人事担当者に、スケッチはこれまで何度も出会ってきた。そしてその言葉の裏に、ある共通した構造を見てきた。
採用活動にお金をかけること、人材紹介会社を使うこと、課金型の求人媒体を使うこと——それ自体は何も悪くない。問題は、それだけに頼り続けることで、気づけば、媒体や人材紹介会社に頼ることが前提になり、採用活動は「広告費や紹介料をかけるもの」になってしまっている——そんな会社が少なくない。
悪循環、と呼ぶにはあまりにも静かに進んでいく。誰かが意図したわけではない。気づけば採用費はじわじわと膨らみ、ノウハウも資産も蓄積されないまま、また離職が起こり、採用活動が始まる。そんな状態が「普通」になってしまっている会社を、これまで何社も見てきた。
思い当たることはないだろうか。採用費は毎年しっかりかけているのに、採用活動が「うまくいった」と胸を張って言える年が少ない。媒体を変えるたびに一時的に応募が増えても、翌年はまた同じ悩みに戻る。社内に採用活動のノウハウが残らず、毎回ゼロから始める感覚がある。もしそうなら、それは予算の問題でも担当者の問題でも媒体の問題でもないかもしれない。採用活動の設計そのものに、見直すべき何かがある。
採用費を削りながらも、採用数を増やした会社がある。しかも、コストが9割近く落ちた事例が、複数ある。今回紹介するのは、そんな3社の物語だ。
九州の介護福祉法人、九州の産業廃棄物会社、北陸の物流会社。業種も規模も異なるが、3社の変革には一つの共通点があった。採用活動はお金がかかるものという認識からの転換だ。何を変えたのか。何を手放したのか。3社の記録をたどっていきたい。
目次
介護職の採用が難しいことは、業界の内外でよく知られている。慢性的な人手不足、高い離職率、そして根強いネガティブイメージ。九州で特別養護老人ホーム、ショートステイ、デイサービスなどを運営するこの法人(従業員約300名)も、長年その壁の前に立ち続けてきた。
状況をさらに難しくしていたのが、立地の問題だ。山間部に位置する施設もあり、周辺の人口が年々減少している。採用エリアを広げようにも、そもそも求職者の母数が少ない。応募が少ない、採用できても定着しない、現場は慢性的に疲弊する、その疲弊がさらに離職を生む——という連鎖が、長年続いていた。
そうした状況の中でこの法人が長年とってきた「解決策」は、人材紹介会社を活用することだった。紹介会社に頼めば、とりあえず候補者が来る。採用できれば問題が解決する(ように見える)。だが紹介会社経由の採用はコストが高い。1名採用するごとに発生する紹介手数料が積み重なり、採用費は高止まりしたまま下がらない。そして離職が起これば、また紹介会社に頼む——。気づけばその循環から抜け出せなくなっていた。
「採用してもすぐ辞める」「若手が定着しない」「現場が疲弊する」。この3つの言葉が、この法人の採用活動と組織の現状を要約していた。費用はかかっている。でも課題は解決されていない。そのギャップが、じわじわと現場と経営の両方を消耗させていた。
スケッチが最初に取り組んだのは、採用活動全体の再設計だった。既存の採用手法を単純に入れ替えるのではなく、「どのエリアのどの職種に、どの経路で、どんな言葉で訴求するか」を一から設計し直す作業だ。エリア別・職種別に採用手法を細かく分け、それぞれの特性に合った手法を組み合わせていった。
もう一つ、「採用活動が一人の担当者に集中している状態を変えること」にも着手した。特定の担当者だけが抱え込んでいる採用活動は、その人が抜ければ機能しなくなる。仕組みとして採用活動が回る状態をつくることが、コスト削減と安定的な採用活動の両立に不可欠だった。
変革の核になったのが、管理職と現場社員が一緒に参加する「自社の魅力言語化ワークショップ」だ。「うちの施設のどんなところが、働く人にとって価値があるのか」を自分たちの言葉で掘り起こしていく。外部が「御社の強みはこれですよ」と決めるのではなく、当事者が自分たちで言葉を見つける。その過程に意味がある。
職場の当たり前になっていることが、実は外からは見えていない魅力だったりする。長年働いている社員が「これって特別なことだったの?」と気づく瞬間が、ワークショップの中で何度も生まれた。言語化された魅力は、求人票の文章に変わり、リファラル採用(社員紹介)で「知人に声をかけやすい理由」にもなっていった。
並行して、管理職向けのコミュニケーション研修も実施した。採用した人材が定着しやすい職場環境そのものにアプローチする施策だ。採用数を増やすことと、離職を減らすことは、本来セットで考えるべき課題だ。この法人ではその両面を同時に進めていった。
人材紹介会社に「候補者を送ってもらう」という受け身の採用活動から、自社が主体的に動く採用活動へ。応募経路を多様化し、リファラルの仕組みを整備し、求人票を磨き直す。地道な作業だが、その一つひとつが「自社に積み上がる資産」になっていった。
応募数は月間平均で2倍に増加した。採用単価は従来比95%削減。人材紹介・派遣会社への依存はゼロになり、応募経路はほぼ無料媒体またはリファラルで完結するようになった。
さらに、予想していなかった波及効果があった。新規事業の入札で、競合他社に勝利したのだ。審査員が評価したのは事業計画の内容だけではなかった。「安定した人材獲得の仕組みを有している」という点が、組織としての安定性の証左として評価された。採用基盤の強化が、事業開発の場面でもこの法人の武器になったのだ。採用活動の変革が、経営の可能性を広げた事例といえる。
お金をかければ人が来る、という思い込みから抜け出したことが、この法人の変革の核心だ。人材紹介会社を否定するわけではない。本当に必要なポジションに、必要なタイミングで使う——そのような選択肢の一つとして機能するとき、紹介会社は大きな力になる。依存と活用は、似て非なるものだ。ただ、紹介会社「だけ」に依存していた状態を変えることで、採用活動がはじめて「自分たちで動かせるもの」になった。
採用単価が9割以上下がった。だがそれ以上に大きな変化は、採用活動が「お金をかけるもの」から「育てるもの」に変わったことだろう。人材紹介会社や求人媒体に頼り続けていた限り、見えなかった景色がそこにある。
九州でドライバーの採用を中心に行うこの産業廃棄物会社(従業員約200名)は、長年、地元密着型の求人メディアを採用活動の主軸に据えてきた。年間投資額は約600万円。月換算で50万円が、ほぼ固定費として出ていく状態だった。
長年続けてきた方法だったから、誰も疑わなかった。この媒体に出せば応募が来る、というのが社内の共通認識になっていた。実際、以前はそれで機能していた。ところが2024年頃から、その前提が静かに崩れ始めた。応募数が減少し、採用数も鈍化する。同じお金をかけているのに、結果が出なくなってきた。
なぜ誰も「やめよう」と言い出せなかったのか。理由はいくつか考えられる。一つは、長年続けてきたという事実そのものが、正当性の根拠になっていたかもしれない。もう一つは、やめて応募が減ったときの恐怖だ。今の方法が効いているかどうか確信がなくても、やめる勇気は出ない。採用は失敗が許されない、というプレッシャーが、変化への一歩を遠ざけていた。結果として、効果が落ちていても投資を続けるという選択が、惰性のように繰り返された。
事業は拡大方向にあり、採用ニーズは高まっている。既存社員の離職もあって現場は常に人手が足りない。「もっとお金をかけるべきか」「媒体を変えるべきか」「そもそも何が問題なのか」——打ち手が見つからないまま、時間だけが経過していった。
スケッチがまず行ったのは、現状の数値整理だった。どの媒体からどれだけ応募があり、どれだけ採用につながっているか。チャネルごとの費用対効果を一つひとつ洗い出す、地道な作業だ。
その結果、ある事実が浮かび上がった。月平均50万円を投下していた主要媒体の効果が、数字で見ると想定より限定的だった。費用がかかっているから効いているはず——そういう思い込みが、正直な数値の確認を遠ざけていた可能性がある。しかし数値は正直だった。同時に、見落とされていた採用手法が複数あることもわかった。ハローワークの掲載内容は最適化されておらず、活用できていない無料の手法がいくつも眠っていた。
採用手法の見直しと並行して、社員インタビューを通じた「自社の魅力の棚卸し」を進めた。ドライバーとして働く社員たちに話を聞いていくと、あるポイントが見えてきた。この会社のドライバーは、帰宅時間が比較的安定している。地域密着の産業廃棄物収集という仕事の性質上、夜間の長距離輸送がなく、「毎日家に帰れる」ことが当たり前になっていた。
「安定した勤務時間が、社員本人だけでなく家族にも喜ばれている」——その声を丁寧に言葉にしていった。家族との時間を大切にしたい人、規則正しい働き方を求めている人。そういった求職者の心に届く訴求点を、求人票に落とし込んでいった。これまでの求人票が伝えていなかった「この会社ならではの働き方の価値」が、初めて言葉になった。
コストパフォーマンスに優れた採用手法への切り替えも進めた。ハローワークの掲載を全面的に見直し、Indeed・求人ボックスなどの無料チャネルを整備した。リファラル採用(社員紹介)とアルムナイ採用(元社員の再雇用)の仕組みも構築し、PRブックも作成した。採用担当者が自分でPDCAを回せるよう、個別レクチャーも継続的に行った。
一つひとつの施策が、自社に積み上がっていく。求人票は次の採用でも使える。魅力の言語化は、別の媒体でも応用できる。PRブックは、面接の場でも活きる。「採用活動のたびにゼロから始める」状態から、「採用活動のたびに資産が増える」状態へ。その転換が、この会社の変革の核だった。
採用数は128%増加した。採用コストは年間600万円から180万円へ、70%削減。採用単価は33.3万円から9.1万円へ、75%改善した。無料経路からの応募も増加し、特定の媒体に頼らない、複数の経路から応募が届く状態になった。
注目すべきは、コスト削減と採用数増加を同時に実現している点だ。費用を削ったから採用数が落ちてしまった、ではない。費用を適切な場所に使い直し、自社に資産を積み上げたことで、採用数が増えた。その逆転が、この会社の変革を語る上で最も重要な事実だ。
年間600万円という数字に、誰も疑問を持てなかった。長年続けてきた習慣と、「お金をかけているから大丈夫」という感覚が、思考を止めていた。
変革は、数値を正直に見ることから始まった。「効いていない投資」を可視化し、その分を「効く投資」と「自社に積み上がる資産」に振り替える。言葉にすれば単純だが、それをやり遂げるには、思い込みを手放す勇気が要る。この会社はそれをやった。結果として残ったのは、来年も再来年も使い続けられる採用活動の「地力」だ。
創業30年以上の歴史を持つ北陸の物流会社。地域に根を張り、信頼を積み上げてきた会社だ。しかし内側では、深刻な問題が年々進行していた。ドライバー不足と高齢化だ。社員の平均年齢は45歳を超え、若い入社者の姿が見当たらない状態が続いていた。
採用活動への投資は、けっして少なくなかった。人材紹介会社を活用し、1人採用するたびに100万円以上のコストがかかることもあった。それだけのお金をかけても、若年層からの応募はほぼゼロ。費用を増やしても、欲しい人材が来ない。なぜ来ないのか。その理由がわからなかったことが、最もつらい部分だったかもしれない。
「物流=きつい仕事」というイメージが、若い求職者の前に見えない壁を作っていた。長距離トラックの運転手、深夜の配送、体力勝負の仕事——物流業界全体に対するそういうイメージが、この会社の採用活動にも影を落としていた。しかし実態は、そのイメージとは大きく異なっていた。その乖離を、この会社はうまく伝えられていなかった。
スケッチが最初に取り組んだのは、社員15名への徹底的なインタビューだった。「この会社で働くことの、本当のところ」を掘り起こす作業だ。数字や制度を聞くのではなく、日々の仕事の中にある「当たり前」を丁寧に引き出していく。
そこから出てきたのは、業界の一般的なイメージとは大きく異なる実態だった。夜勤がなく、毎日決まった時間に帰れる。それがこの会社の「普通」だった。再配達の対応に追われることもなく、理不尽なクレームも少ない。社員同士の関係はフラットで、上下関係のギスギスした空気がない。この会社で長く働いてきた社員たちにとって、それらはすべて「普通のこと」だった。でもそれは、外から見れば十分に「選ぶ理由」になりうる要素だ。
コンセプトの再設計で選んだ言葉が、「夜勤なし」「再配達なし」「ギスギスした人間関係なし」だった。業界全体に張り付いたネガティブなイメージを正面から受け止め、「この会社は違う」と具体的な言葉で示す。
ポジティブな訴求だけでは届かない求職者に、「〇〇がない」という表現が刺さることがある。特に、過去に物流や運送の仕事で苦労した経験がある人、あるいは家族の理解を得ながら働きたいと思っている人には、「夜勤なし」「毎日帰れる」という具体的な言葉が、長い説明より雄弁に届く。
チャネルをIndeed・求人ボックス・ハローワーク中心に切り替え、自社で磨き続けられる経路へ軸足を移した。求人に使う写真は、スマートフォンでの閲覧を前提に選定し直した。現場の雰囲気が伝わるもの、社員の素の表情が見えるものを意識した。noteでは社員インタビューやリファラル入社のエピソード、会社のカルチャー紹介を記事化し、「この会社で働くリアル」を継続的に発信し始めた。
後にこの法人の担当者は、変革を振り返ってこう語っている。
採用の「量」を確保することが最初の目的だったが、気づけば「質」も同時に高まっていた。自社の魅力を言葉にして求職者に届けられるようになったことで、想定以上の変化が生まれた。そして、採用に関するノウハウを自社に積み上げられたことが、これから先大きな財産になると。
応募数は前年同時期の5名から23名へ、4.6倍に増加した。採用数は1名から6名へ。採用コストは約140万円から約15万円へ、約10分の1に圧縮された。
採用者の中心は20代などの若手だ。高卒採用にも成功し、応募者の平均年齢は7歳若返った。数字も大きく動いたが、この会社の変革を語る上で見逃せない変化がある。「noteを読んで共感した」という応募者が増えたことだ。コストをかけて「来てもらう」採用活動から、価値観に共感した人が「来たくなる」採用活動へ。共感で来た人は、定着しやすい。自分が選んだ理由が明確だから、入社後のギャップが少ない。採用活動の質が変わることが、定着率にも影響を与え始めている。
費用をかけても若手が来なかった理由は、若手が来ない業界だからではなかった。「来たいと思える情報」が、届いていなかっただけだった。
伝え方を変え、チャネルを変え、コストを適切な場所に絞った。その結果として採用コストは10分の1になり、採用数は6倍になった。費用対効果という言葉では足りないかもしれない。採用活動の設計そのものが変わったのだ。そして採用活動が変わったことで、「どんな人がこの会社を選ぶか」も変わり始めた。
3社の変革を並べてみると、共通の出発点が見えてくる。「採用活動はお金をかけるしかない」と考えていたことだ。
介護法人は、人材紹介会社への依存が高止まりし、採用単価が膨らみ続けていた。産業廃棄物会社は、効果の薄い媒体に年間600万円を投じ続けていた。物流会社は、1人採用するたびに100万円以上のコストを払い続けていた。いずれも、意図してそうしてきたわけではない。「それしか知らなかった」か、「それが当たり前だと思っていた」か。そのどちらかだ。
3社が変革の過程でやったことは、大きく分けて3つある。まず、現状の数値を正直に可視化すること。次に、自社の魅力を自分たちの言葉で掘り起こすこと。そして、採用活動の「主語」を外部から自社に取り戻すこと。この3つは、お金のかかる施策ではない。必要なのは、時間と、向き合う意志と、「今のやり方を疑う」勇気だ。
コスト削減は、目的ではなかった。採用活動を自社の資産として積み上げていった結果として、コストが自然に下がっていった。採用単価が95%削減されたのも、600万円が180万円になったのも、140万円が15万円になったのも、すべて「削った」のではなく「変わった」結果だ。コストを削るだけでは、採用活動の構造は何も変わっていない。変わった採用力は、次の採用活動でも生き続ける。
では、自社はどこから始めればいいのか。3社の経験から言えば、最初の一歩は大きなものでなくていい。今使っているチャネルの応募数と採用数を、一度正直に並べてみること。あるいは、社員に時間をとって、日々の仕事のリアルを聞いてみること。それだけで、これまで見えていなかったものが見えてくることがある。採用の変革は、大きな予算からではなく、小さな問い直しから始まる。
▼ Vol.03では、「若手が来ない」「世代交代が進まない」という課題に正面から向き合い、変革を成し遂げた会社たちの物語を届ける。建設、製造、物流——いわゆる「3K」と呼ばれてきた業種の中で、業界イメージの壁を越えた若手採用の記録だ。伝え方と設計で若手を引き寄せた会社たちの物語を、ぜひ楽しみにしていてほしい。