採用がうまくいかない。
その悩みは、たいてい「現場の人手が足りない」という言葉で語られる。けれど、会社の話を丁寧に聞いていくと、採用の先で、もっと大きなものが止まっていることがある。
新しい店舗を出したいのに、任せられる人がいない。
取引先を広げたいのに、営業や技術を担う人が採れない。
事業は成長しているのに、人と組織の舵を取る責任者がいない。
経営者の頭の中には、次に進むための構想がある。それでも、その未来を担う人がいなければ、計画は計画のまま止まってしまう。
採用活動を、求人広告費や人材紹介の手数料といった「コスト」として考える企業も少なくない。だが、今回紹介する4社にとって、採用は単なる欠員補充ではなかった。止まっていた事業を、もう一度前へ進めるための投資だった。
製造業、治療院、調剤薬局、通信業。業種も規模も、抱えていた壁も異なる。それでも4社は、自社の経営課題を見つめ、採用という入口から会社を動かしていった。
これは、採用の成功事例を並べた記事ではない。
人が採れたとき、止まっていた経営の時間が再び動き始めた。そんな4社の物語である。
目次
中国地方で、金属加工や機械部品の製造を手がける会社がある。
長年にわたり、売上の多くを特定の取引先1社に頼ってきた。安定した取引が会社を支えてきた一方で、その構造には常に危うさがあった。景気の波や取引先の方針転換ひとつで、会社全体が大きく揺らぎかねない。
経営陣も、そのことには以前から気づいていた。
「新しい取引先を開拓し、事業の足場を広げなければならない」
向かうべき方向は見えていた。ところが、その構想を実行する営業職や技術職の採用が、思うように進まなかった。
社内に採用専任者はいない。どんな人を採りたいのかという人物像も、十分には言葉になっていなかった。求人を出しても、何が良くて何が悪かったのかを振り返る仕組みがなく、採用のノウハウは会社に蓄積されない。応募数は年々、目に見えて減っていった。
さらに、人事評価制度も長らく手つかずで、実質的に機能しなくなっていた。
事業の舵は切りたい。けれど、その舵を切った先で必要になる人が集まらない。新しい取引先を増やす計画は描けても、それを実行する体制がついてこない。
事業の未来へ進むための道が、採用という入口で細くなっていた。
支援が始まって最初に行ったのは、目新しい採用手法を導入することではなかった。
応募が来ないのは、媒体の選び方に原因があるのか。求人内容で会社や仕事の魅力を伝えきれていないのか。応募後の対応や選考の進め方に、候補者が離れてしまう要因があるのか。
採用活動のどこで流れが止まっているのかを、一つひとつ洗い出していった。
採用がうまくいかないとき、「この地域には人がいない」「知名度がないから仕方がない」と考えたくなることもある。もちろん、簡単な市場ではない。だが、変えられない条件ばかりを見ていても、状況は動かない。
まず、自社で変えられることを見つける。感覚ではなく、事実をもとに整理する。そこから、この会社の採用改革は始まった。
最初に、自社ホームページの中へリクルートページを新設し、仕事を探す人が会社を知り、応募へ進める導線を整えた。
そのうえで、職種ごとに無料媒体と有料媒体を組み合わせ、誰に、どの入口から、何を伝えるのかを設計し直した。一度求人を掲載して終わるのではなく、反応を見ながら内容や運用を見直す。求人を「完成品」ではなく、「出した後に育てていくもの」へと変えていった。
応募から面接、内定までの選考プロセスも点検した。対応のスピードに遅れはないか。応募者に同じ説明を重ねていないか。候補者が不安を抱えたまま次の選考へ進んでいないか。小さなつまずきを一つずつ取り除き、行き当たりばったりだった流れを、繰り返し検証できる形へ組み替えていった。
社員紹介、いわゆるリファラル採用にも改めて目を向けた。これまでも社員のつながりから紹介が生まれることはあったが、それはあくまで偶然に近いものだった。紹介したいと思った社員が迷わず動けるようにし、自然発生に頼っていた採用チャネルを、会社として運用できるものへ変えていった。
並行して着手したのが、形骸化していた人事評価制度の再設計である。
人を採ることだけを考えるなら、評価制度は別の課題に見えるかもしれない。しかし、採用した人が納得感を持って働き続けられる土台がなければ、入口だけを広げても組織は強くならない。
採用と定着を切り離さず、迎えた人がこの会社で力を発揮し続けられる状態まで考える。それは、目の前の採用数ではなく、これから取引先を広げていく会社の未来を見据えた判断だった。
支援開始から半年。応募数は10名から26名へ、採用数は3名から6名へ伸びた。前年と比べると、応募のペースは約5倍、採用数は約4倍に達している。
数字の変化も大きい。だが、この会社にとって最も意味があったのは、取引先の開拓を担う営業経験者を採用できたことだった。
新しい取引先へ踏み出したい。そのために必要な人が、ようやく会社に加わった。
それは、欠員が一つ埋まったという話ではない。長く経営陣の頭の中にありながら、実行へ移せずにいた構想が、現実へ向かって動き始めたということだった。
この会社は、採用専任者を新たに置いたわけでも、大きな広告予算を積み増したわけでもない。
今いる人員で、今使える媒体を見直し、求人と選考を改善し、紹介の仕組みを整えた。手元にあるものの使い方を磨き直したことで、応募の量も質も変わっていった。
何より大きいのは、社長一人でも継続して採用活動を回せる仕組みが残ったことである。
外部の支援がなければ止まる採用活動ではなく、反応を見て、自分たちで考え、次の一手を選べる採用活動へ。1社依存という構造的な経営課題に挑むための力が、会社の中に残った。
採用活動が整ったことで、この会社はようやく、本来向き合いたかった取引先開拓に正面から時間とエネルギーを注げるようになった。
採用改革とは、人を集める施策を増やすことではない。
経営者が描いていた未来を、自分たちの力で動かせる状態をつくることなのだ。
九州で複数店舗を展開する治療院グループは、新卒採用を軸に事業を成長させてきた。
入社後に人を育てる体制も整っている。採用経験がまったくない会社ではない。むしろ、これまで採用と育成を積み重ねながら、店舗を広げてきた会社だった。
ところが、その新卒採用が少しずつ鈍化し始めていた。
主な採用ルートは、学校からの紹介だった。長年築いてきた学校との関係は、この会社にとって大切な財産である。一方で、採用数が学校側の事情や紹介数に左右されやすいという側面もあった。
採用責任者は、事業運営との兼務。日々の現場を動かしながら採用活動にも向き合っていたが、採用活動は片手間で回せるほど単純ではない。
折しも、会社では新規出店の計画が進んでいた。
店舗を増やせば、そこで働く人が必要になる。人を育てる仕組みがあっても、入口となる採用が細れば、成長のシナリオそのものが描けない。
これまで会社を成長させてきた新卒採用が、次の成長を止めるボトルネックになりかけていた。
最初に行ったのは、応募経路、面接率、採用率を数値として整理することだった。
採用活動が鈍っていることは分かっている。けれど、どの段階で、どれだけつまずいているのかが見えなければ、次の一手は選べない。
学校からの紹介が減っているのか。応募はあるのに面接へ進んでいないのか。選考には進むものの、最後の入社決定まで届いていないのか。
「なんとなく厳しい」という感覚を、改善できる事実へ変えていった。
同時に行ったのが、この会社がすでに持っている資源の棚卸しだった。
新しい施策を外から次々に持ち込むのではなく、育成体制、地域とのつながり、学生に伝えられる仕事の価値など、これまで当たり前すぎて見えにくくなっていた強みに、もう一度光を当てた。
数値をもとに具体的なKPIを置き、採用活動のロードマップを策定した。
どの時期までに、何人と接点を持ち、何人に選考へ進んでもらい、何人の入社につなげるのか。目標から逆算して動けるようになったことで、採用活動は、紹介を待つものから、自分たちで動かすものへ変わり始めた。
採用サイトは、コンセプトから見直した。会社が伝えたいことを並べるのではなく、学生が将来を考えるときに、何を知りたいのか。入社後にどのように学び、成長し、仕事を続けていけるのか。学生の視点からコンテンツを再設計し、SEOを強化しながら保守費用の圧縮も進めていった。
アプローチする学校も、改めて戦略的に整理した。これまでの関係を大切にしながら、どの学校へ、いつ、どのような情報を届けるかを組み直す。学生向けの採用ピッチも磨き、「何をしている会社か」だけではなく、「ここで働くと、どんな未来を描けるか」が伝わる内容へ変えていった。
さらに、この会社が地域でスポーツ大会を主催しているという独自の取り組みにも目を向けた。
地域とのつながりや、スポーツを通じて人を支える姿勢は、会社にとって長く続けてきた日常だったかもしれない。しかし、学生から見れば、それはこの会社で働く意味を感じられる大きな魅力になり得る。
すでに持っていたものを、採用の文脈で語り直す。
この会社の変化は、足元にあった資産を、学生に届く形へ磨き直すことから生まれていった。
進捗が思わしくなかった新卒採用は、当初掲げていた目標人数を確保するところまでV字回復を遂げた。
採用サイトの保守費用も大幅に削減された。さらに、応募経路や選考の歩留まりを数値として蓄積できるようになったことで、次年度の採用計画を立てるための明確な材料が残った。
これまでの採用活動は、学校からの紹介や学生の動きを待ちながら、その年ごとの状況に対応する色合いが強かった。
しかし、KPIを持ったことで、「今どこにいるのか」「このままで目標に届くのか」「届かないなら、何を変えるのか」を自分たちで判断できるようになった。
感覚に頼っていた採用が、数字で話し合い、先を見通せる活動へ変わった。その変化は、目標人数を採用できたこと以上に、この先何年も使える会社の資産になった。
この会社には、もともと人を育てる力があった。
ただ、その力を生かすためには、まず人を迎えなければならない。育成の仕組みだけでも、採用の仕組みだけでも、事業の成長は続かない。
採用活動が立て直されたことで、新規出店という事業の意思決定を、人材不足に阻まれることなく前へ進められる状態を取り戻した。
新しい店舗を開く。その場所で、若い人材が学び、成長し、地域の人を支えていく。
頭の中にあった成長のシナリオが、採用という入口とつながったことで、現実のものになり始めた。
この会社が取り戻したのは、採用人数だけではない。
「次の店舗を出しても、人を迎え、育てていける」という、事業を前へ進める確かな手応えだった。
鹿児島県内で2店舗を運営する調剤薬局には、さらなる出店計画があった。
新しい店舗を開き、より多くの地域の患者に必要な薬を届けたい。その構想を実現するためには、薬剤師の採用が欠かせない。
Indeedでは有料広告を出していた。複数の人材紹介会社にも依頼していた。それでも、目立った成果は出ていなかった。
募集を出し、応募を待つ。
紹介会社へ依頼し、候補者の連絡を待つ。
できることはやっている。それなのに、採用は動かない。
採用担当者にとって、これほどもどかしい状態はない。手を打っていないのであれば、次の施策を考えられる。だが、「打てる手は打った」という感覚がある中で結果が出ないと、何を変えればよいのかさえ見えなくなる。
薬剤師は、国家資格を持つ専門職である。そもそもの人材数が限られ、多くの医療機関や薬局が採用を求めている。募集を出せば自然に人が集まる職種ではない。
だからこそ必要だったのは、露出を増やし続けることではなく、「この薬局で働く意味」を、必要な人へきちんと届けることだった。
この会社の課題は、打ち手の数ではなかった。
一つひとつの打ち手が、同じ方向を向いていないことにあった。
最初に行ったのは、現場で働く薬剤師へのインタビューだった。
なぜ、この薬局で働き続けているのか。日々の仕事の中で、どんな瞬間にやりがいを感じるのか。患者との距離、職場の人間関係、仕事の進め方、地域との関わり。外からは見えにくい魅力を、実際に働く人の言葉から掘り起こしていった。
求人票には、勤務時間や給与、休日などの条件が必要である。しかし、条件だけでは、候補者は複数の薬局の違いを見分けられない。
この職場だから得られる経験は何か。
どんな人と、どんな雰囲気の中で働くのか。
患者一人ひとりと、どのように向き合えるのか。
インタビューから見えてきた魅力を言葉にし、求人票を根本から刷新した。
求人票を整えた後、採用手法ごとの役割を見直した。
ハローワークでは、求人を掲載して待つだけではなく、リクエスト機能を積極的に活用した。登録されている求職者へ、企業側から求人情報を届けることで、受け身だった採用を、自ら接点をつくる採用へ変えていった。
課金型の専門媒体であるジョブメドレーでは、掲載内容を統一した。Indeedや求人ボックスは、無料の範囲で露出を最大化する運用へ切り替えた。
有料の枠をさらに増やすのではない。今ある枠で、誰に何を伝え、どのように応募へつなげるかを磨き直した。
人材紹介会社にも、刷新した最新の求人票を改めて展開した。
紹介会社へ依頼していても、担当者が持っている情報が古かったり、求める人物像が曖昧だったりすれば、精度の高い紹介は生まれにくい。そこで、求める人物像と職場の魅力を整理し直し、定期的なミーティングを重ねた。
「良い人がいたら紹介してください」と依頼して待つ関係から、自社の状況を継続的に共有し、採用活動を一緒に動かす関係へ。
目に見える広告枠だけではなく、紹介会社との関係そのものも採用経路として育てていった。
この会社が見直したのは、一つの施策ではない。無料媒体、有料媒体、人材紹介という複数の入口すべてで、同じ人物像と同じ魅力が伝わる状態をつくった。
専門職採用が動かないとき、原因は一つの媒体にあるとは限らない。むしろ、媒体ごとに書かれていることが違う、紹介会社と共有している情報が古い、候補者へ伝える魅力が揃っていない。そんな小さなずれが重なり、採用全体の力を弱めていることがある。
ばらばらだった入口を、同じ方向へそろえる。
その地道な作業が、長く動かなかった採用を動かし始めた。
支援開始から、わずか3か月。
ハローワーク経由で薬剤師1名、人材紹介経由で薬剤師2名。さらに、調剤事務1名の採用に至った。
当初は1年間の契約で始まった支援だったが、4か月目にはすでに採用目標を達成し、5か月目で支援はいったん終了となった。
担当者は、当時の心境をこう振り返っている。
「まさか、ここまでトントン拍子に決まるとは思わなかった。これまでが嘘のようだ」
長く動かなかったものが、動き始める。
しかも、特別な奇策ではなく、求人票、媒体の使い方、紹介会社との関係という、これまでも目の前にあったものを見直したことで。
薬剤師の採用は、出店計画を進めるための最後のピースだった。
そのピースが埋まり、会社はようやく、新しい店舗という未来へアクセルを踏めるようになった。
専門職は母数が少ない。地域によっては、さらに難易度が上がる。採用できない理由を挙げようと思えば、いくつも挙げられる。
この会社も、決して簡単な環境にいたわけではない。
それでも、候補者へ伝える言葉を磨き、使っているチャネルを丁寧に運用し、紹介会社との関係をつくり直したことで、採用活動のスピードは変わった。
変化の本質は、「薬剤師を3名採用できた」という結果だけではない。
募集を出した後は待つしかないと思っていた採用活動を、自ら働きかけ、改善し、動かせる活動へ変えたことにある。
「専門職だから仕方がない」と諦める前に、自分たちで変えられることはまだ残っている。
この会社の歩みは、同じように専門職採用に悩む多くの中小企業へ、その可能性を示している。
東北を拠点とする通信会社では、事業拡大が進んでいた。
ショップや店舗を運営し、事業が広がるほど、採用する職種も人数も増えていく。ところが、その採用全体を見渡し、舵を取る人事責任者がいなかった。
採用活動は、必要になった部署や現場がその都度対応する。部署ごとに求める人物像や選考基準が異なり、どのチャネルから何人の応募があり、どこまで選考が進んだのかという測定も十分ではない。
採用広報で何を伝えるかも整理されておらず、「必要なときに、必要な人を確保できない」という状態が続いていた。
課題は、人事責任者という一人がいないことだけではなかった。
その人が入社した後、会社全体の採用を動かすための基準も、データも、チャネルの運用方法も、十分には整っていなかったのである。
事業は拡大フェーズに入っている。にもかかわらず、人を迎える仕組みだけが、会社の成長から取り残されていた。
人事責任者の採用は、一般的なスタッフ採用とは難しさが異なる。
採用実務に強い人が必要なのか。制度や組織づくりまで担える人が必要なのか。経営と現場の間に立ち、人に関する意思決定を進められる人が必要なのか。
「優秀な人事責任者」という曖昧な言葉のままでは、候補者を探すことも、見極めることもできない。
そこで最初に、人事責任者に求める人物像を3つのペルソナとして定義した。
一つに絞らなかったのは、この会社が求める役割の幅が広かったからである。理想像を狭く固定しすぎれば、採用の間口を必要以上に狭める。一方で、誰でもよいとしてしまえば、入社後に託したい役割とずれてしまう。
基準は持ちながら、複数の可能性に開いておく。
「どんな人を採るか」を考えることは、「これから会社の人と組織を、どうしていきたいか」を考えることでもあった。
社内では、「自力採用力=企業力×職員待遇×採用活動力」という考え方を共有した。
企業そのものの魅力や待遇は、採用活動に大きな影響を与える。ただし、すぐに変えられるものばかりではない。一方、誰に、どのチャネルで、どんな情報を届け、応募後にどう対応するかという採用活動力は、今からでも磨くことができる。
変えにくい条件だけを嘆くのではなく、自分たちでコントロールできる採用活動へ力を注ぐ。その共通認識を持ったことで、社内の議論は前へ進み始めた。
人事責任者の採用では、ターゲットとチャネルの組み合わせを見直し、ハイクラス系エージェントとの接点を開拓した。エージェント向けの説明会も開催し、会社の事業、採用背景、入社後に託したい役割を丁寧に伝えた。
エージェントは、求人票だけを見て候補者へ声をかけるわけではない。会社の未来や経営者の考えまで理解して初めて、候補者にその仕事の意味を伝えられる。
一方で、ショップや店舗のスタッフ採用では、地域に根ざしたアプローチを進めた。ハローワークとの連携を強化し、現地で単独説明会を開催。約20名が参加した。
採用ピッチ資料やGoogleビジネスプロフィールも整備し、会社を知った人が、さらに情報を確かめられる受け皿をつくった。
人事責任者というハイクラス人材と、地域で働く店舗スタッフ。同じ会社の採用であっても、候補者が仕事を探す場所も、知りたい情報も、意思決定の仕方も違う。
一つの成功パターンをすべての職種へ当てはめるのではなく、対象に合わせて採用手法を使い分ける。
その発想自体が、この会社の採用力を広げていった。
新たに開拓したハイクラス系エージェントを通じて、長く空席だった人事責任者の採用に成功した。
さらに、地域に根ざした説明会やハローワークとの連携から、ショップ・店舗スタッフ2名の採用も実現した。
難易度の異なる二つの採用を、同じ方法で解こうとしなかった。それぞれの候補者に合った入口と伝え方を整えたことで、必要な人材を迎えることができた。
だが、この会社にとって、人事責任者の採用はゴールではない。
むしろ、ここからが始まりだった。
採用基準、KPI運用、採用広報、チャネルの管理、エージェントとの付き合い方。支援の中で整えてきた土台を、新たに加わった責任者が引き継ぎ、会社全体の採用力をさらに育てていく。
一人の採用が、次の採用を生み出す起点になった。
人事責任者がいないという課題は、「適任者を一人採れば解決する」と見えやすい。
しかし実際には、その人が力を発揮できる土台がなければ、採用できても、会社全体の採用は変わらない。
誰を採りたいのか。何を任せたいのか。どの数字を見て、どのチャネルを動かすのか。現場と経営の間で、どのように合意をつくるのか。
この会社が最初に人物像や考え方の言語化から始めたのは、一人の採用を、組織全体の変化へつなげるためだった。
事業の拡大を支える体制が、ようやく会社の中に根を張り始めている。
人事責任者という一人を迎えたことで、「必要なときに人が採れない会社」から、「事業の成長に合わせて採用を考え、動かせる会社」へ。
変革は、採用決定の瞬間に終わったのではない。
その一人とともに、これから先も続いていく。
4社に共通していたのは、採用の遅れが、そのまま事業の遅れになっていたことだった。
1社依存から抜け出したい。
新しい店舗を出したい。
専門職を迎え、事業を広げたい。
拡大する組織を支える責任者を置きたい。
経営者の頭の中には、すでに次の一手があった。けれど、それを担う人がいなければ、計画は前へ進まない。
4社が行ったことは、決して特別なものばかりではない。応募経路を整理し、採用活動のどこでつまずいているのかを確かめ、求人票や媒体、選考の進め方を一つずつ見直していった。
大きな変化の始まりは、いつも地道だった。
けれど、その小さな改善が積み重なった先で、人が採れ、止まっていた計画が動き出した。採用は単なる欠員補充ではなく、会社が描いていた未来を現実に変える力になった。
そして、もう一つ大切なのは、4社とも外部に頼り続ける状態を目指したわけではないということだ。
採用活動の考え方や進め方を社内に残し、支援が終わったあとも、自分たちで改善を続けられる状態をつくる。一度だけ人を採るのではなく、事業の成長に採用が追いつき続ける力を手にしていった。
採用がうまくいかないとき、会社そのものに魅力がないわけでも、地域や業界のせいだけでもない。
まだ言葉になっていない魅力があるのかもしれない。
まだ試していない届け方があるのかもしれない。
あるいは、すでに取り組んでいることの中に、見直せる余地が残っているのかもしれない。
変化の入口は、会社ごとに違う。
それでも、自社の課題を正しく見つめ、一つずつ動かしていけば、止まっていた事業が再び動き出すことはある。今回の4社の物語が、そのことを伝えている。
次回のVol.07では、採用担当者が不在で、割ける予算もほとんどないという、より多くの中小企業にとって身近な状況から、採用活動を変えていった会社たちを紹介する。