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新入社員の早期離職を防ぐには?定着率を高める「最初の90日間」のオンボーディング設計

前回の記事「早期離職は『入社前』に防ぐ」では、採用段階からの情報設計とプレオンボーディングについて解説しました。入り口の設計を整えて、候補者が期待値のズレなく入社日を迎えられた——ここまでできて、ようやく次の課題が始まります。

入社後の最初の90日間です。

この時期に新入社員が「ここでやっていける」と感じるかどうかは、その後の定着に長く影響します。
逆に言えば、どれだけ丁寧に採用しても、受け入れ側の準備が不十分だと、そこまでにかけた労力や素敵なご縁が活かしきれなくなってしまいます。

本記事では、早期離職を防ぎ定着を促すためのステップとして、「初日の体験設計」「30-60-90日オンボーディングプログラム」「社内広報・コミュニケーション」の3点について、現場で使える観点を解説します。


入社初日〜3ヶ月以内に新入社員が「辞めたい」と思う瞬間

オンボーディングの設計を考える前に、まず「なぜこの時期に辞めるのか」を構造として押さえておく必要があります。

厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」によると、大学卒の就職後3年以内の離職率は33.8%に上ります。3人に1人が3年以内に辞めている計算です。
また同調査では、事業所規模が小さいほど離職率が高い傾向も示されており、5人未満の事業所では大卒で57.5%、5〜29人規模でも52.0%と、中小企業ほどこの問題が深刻であることがわかります。

つまり、最初の90日は、定着するかどうかの感触が固まりやすい時期といえます。
現場の観察からも、早期離職の判断が入社後の最初の数ヶ月に集中しているケースは多く、
この時期の受け入れ設計が定着率に直結するという見方は、多くの企業支援の経験と一致しています。

「誰からも声をかけられない」「役割が不明」が生む孤立感。

実際の現場で起こりがちなのが、初日や入社直後の「放置」です。
もちろん、受け入れ側も決して悪気があるわけではありません。日々の業務が忙しかったり、急な対応で担当者がバタバタしてしまったりすることもあるでしょう。

しかしその結果として意図しない「放置」が起こることがあります。

「席に座って待っていてください」で午前が終わる。何をすればよいかわからないまま昼になる。誰も話しかけてこない。このような体験が重なると、新入社員の中に「自分はここにいてよいのか」という感覚が芽生えます。能力や意欲とは無関係に、環境そのものが孤立感を生み出しています。

こうした状態が続くと、「まだ続けるかどうか判断している段階」がいつの間にか「辞めることを前提に次を探す段階」に変わっていきます。本人も気づかないうちに、気持ちの重心が移っているのです。

属人的なOJTが「サポートの格差」を生む。

もう一つよく見られるのが、教育の質が担当者に依存しきっているケースです。
面倒見のよい先輩に当たれば手厚くフォローしてもらえるが、そうでなければ十分なケアが受けられない——という状態は、組織としての受け入れ体制がまだ整っていないサインと言えます。担当者が忙しい時期には教育が止まり、引き継ぎもなく、新入社員は何が正しい状態なのかわからないまま過ごすことになります。

早期離職が起きた際、「ミスマッチ」という一言で片付けられてしまうことがありますが、実はその多くは性格や相性の問題ではなく、受け入れ側の仕組みがうまく機能していなかったことにも原因があります。


仕組み①:初日の体験設計——孤立を生まない「迎え方」

オンボーディングで真っ先に手をつけるべきは、入社初日のスケジュール設計です。

「初日に特別なことはしていない」という企業もいらっしゃるかもしれませんが、
新入社員にとって入社初日は、その後の組織への印象を決める日です。
「歓迎されている」と感じるかどうかは、その日の過ごし方でほぼ決まります。

時間単位でスケジュールを設計するだけで、不安は激減する。

何をするかわからない状態で出社することと、「午前中はオリエンテーション、昼は先輩社員と一緒に食事、午後は各部署の挨拶まわり」と事前に案内された状態で来ることでは、新入社員の安心感がまるで違います。特別なプログラムは不要です。動きの見通しを持てるだけで、緊張の質が変わります。

具体的に押さえておくべきポイントは以下です。

これらはすべて、準備コストがほぼかからない打ち手です。
事前に段取りを組んでおくかどうかの差が、新入社員の「ここにいてよかった」という感触を作ります。

「歓迎されている」という感覚は、定着の土台になる。

入社初日に「この会社は自分を待っていてくれた」と感じた人は、その後少し壁にぶつかっても「もう少し頑張ってみよう」と踏みとどまりやすくなります。

初日のひと手間は、費用をかけずにできる最大の投資です。最初に注いだ少しのエネルギーが、その後の定着期間という形でしっかりと返ってきます。


仕組み②:30-60-90日プログラムで、成長を「見える化」する

初日の体験設計が「迎え方」だとすれば、30-60-90日のオンボーディングプログラムは「育て方の設計図」です。

日々の業務に追われがちな中小企業では、こうした設計図をあらかじめ用意しておくのが難しいケースも少なくありません。
ただ、『まずは現場に入って、やりながら覚えてもらう』という方針だけになると、新入社員は「自分が今どのくらい成長しているのか」「この先どういう状態を目指せばよいのか」が見えないまま過ごすことになります。見通しが立たないことは、それ自体がストレスになります。

時期ごとのゴールを設定し、小さな達成を積み重ねる

30日・60日・90日それぞれに「この段階ではこれができている状態」という目標を設定するだけで、新入社員の安心感や『一歩ずつ進めている』という成長実感は変わってきます。目標は細かすぎる必要はありません。

これは評価するためのものではなく、「今どのあたりにいるか」を本人と組織が共有するためのものです。
「自分は成長している」という感覚が持てると、次の壁を越える力が出ます。

放置を防ぐ定期面談の設計

せっかく目標を設定しても、そのままにしておいてはもったいありません。
大切なのは、日々の進捗に寄り添い、定期的に『どうですか』と声をかける仕組みです。
月に1回でも、上司や先輩との面談の時間を確保することで、小さな詰まりを早期にほぐすことができます。

面談で大切なのは評価することではありません。
「今どんなことに詰まっていますか」「わかりにくいと感じていることはありますか」という問いを投げ、本人が話しやすい空気を作ることです。
新入社員が自分から「困っています」と言える職場は、定着しやすい職場でもあります。

育成の仕組みが属人的になりやすい規模感の企業こそ、オンボーディングの構造化が定着率の差に直結します。


仕組み③:新入社員を孤立させない社内広報・コミュニケーション

オンボーディングの設計で見落とされがちなのが、既存社員側の準備です。

新入社員が「居場所がある」と感じるかどうかは、周りの社員がどう関わるかに大きく左右されます。
上司がどれだけ丁寧に迎えても、周囲の社員が無関心であれば、孤立感は消えません。

既存社員に「新入社員の魅力」を先に伝える。

新入社員が入社する前後に、既存社員に向けて簡単な紹介をするだけで、周囲の関わり方が変わります。
「今月から〇〇さんが加わります。前職では△△をされていて、〇〇という部分に興味を持って入社を決めてくれました」という情報があれば、声をかけるきっかけが生まれます。

これは社内広報というより、「チームとして受け入れる文化を作る仕掛け」です。新入社員を孤立させないために、組織全体に関わってもらうという発想です。

「全社で受け入れる」文化は、設計によって作れる。

これまでは『現場の自主性』や『なんとなくの温かい雰囲気』に委ねていた部分もあるかもしれませんが、あらかじめルールを仕組みとして持っておくことで、より自然に関わりが生まれやすくなります。たとえば、「新入社員が入ったら先輩が一度は声をかける」「入社後1ヶ月以内に他部署とも話す機会を作る」といったルールを仕組みとして持っておくことで、関わりが生まれやすくなります。

大切なのは、こうした取り組みを「新入社員のためのもの」と捉えるのではなく、「組織全体がワンチームで動くための共同作業」として位置づけることです。新入社員が入るたびに、組織が少し活性化する——そういう設計を目指すことができます。


まとめ:定着とは「受け入れ側の設計」である

早期離職が起こるとき、理由として語られるのは「職場の雰囲気が合わなかった」「思っていた仕事と違った」という言葉です。しかしその背景には、受け入れ側の設計の不在もあります。

本記事で整理した3つの仕組みをまとめます。

これら3つは、どれも大がかりな仕組みではありません。
「準備する」「声をかける」「見通しを作る」——こうした、ちょっとした配慮や段取りの積み重ねが、新入社員の安心感を高め、結果として定着へとつながっていきます。

採用は入社で終わりではなく、最初の90日でようやく完結します。入り口の設計と受け入れの設計を一つながりで考えることが、定着する組織をつくる第一歩です。


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